2013年8月

アゲハモドキ




アゲハモドキ  Epicopeia hainesii   2013.8.15.榛名山西麓


 エドヒガンの枝に絡みついたボタンヅルの白い花の先に、黒い小さなアゲハのようなものを見つけたのは連れ合いだった。洗濯物を干しながら見つけたというのだが、「アゲハがいる」ではなく、「アゲハのような」と言ったのはやはり何か違和感があったのだろう。
 アゲハモドキだった。
 見た感じはアゲハチョウの仲間にそっくり。何も知らない人が見たら、かなりの確率でアゲハの仲間と思い込むことだろう。私自身、20数年前、長野県松本市の林の中で最初に出あったときは、やはりアゲハの仲間と信じて疑わなかったものだ。だが、実際はアゲハモドキはアゲハの仲間ではなく、アゲハモドキ科アゲハモドキ属の蛾の仲間に分類されている。もっとも、分類上は蝶も蛾も鱗翅目というカテゴリーにくくられて、はっきりと区分されていないというから、仲間には違いないのだが。
 榛名山麓の雑木林に引っ越して来てからは、まれに林の中で見かけるから、ここではそれほど珍しいものでもないようだ。モンシロチョウのようにどこでも飛んでいるというわけではないが、季節に、運が良ければ1頭くらいは見つけることができるという程度の珍しさとでもいえようか。
 それにしても、アゲハによく似ている。蝶の図鑑を開いて、アゲハのページをパラパラめくってみると、アゲハの中でもジャコウアゲハのオスに一番似ているということがわかる。黒い翅に赤い斑点。よくもここまで同じような姿になったと感心せずにはいられない。体がもう少し大きければ完璧だったことだろう。
 ジャコウアゲハといえば、毒をもつ蝶であることが知られている。ジャコウアゲハの幼虫は、アルカロイドの一種のアリストロキア酸という物質が含まれているウマノスズクサを食う。その結果、ジャコウアゲハの体内にはその有毒な成分が蓄積されているというのである。当然、それを知っていれば、蝶の天敵である鳥たちは、そんな危ないものを普通は食べたがらない。あるいは、一度食べて痛い目に遭えば、二度と食わないだろう。おかげで、自然界での生存率が高くなるという仕組みである。毒を持つ昆虫のメリットは「補食されない」ということが重要なポイントなのである。
 そして、自分を何かに似せて生きていく昆虫の生き方といえば、「虎の威をかる…」である。頭にいくつか思い浮かべてみると、強者であるハチの姿に自分の姿を似せている昆虫のなんと多いことか。アブの仲間、トラカミキリの仲間…など、黒と黄色の警戒色で自らの体を彩った昆虫たちである。
 アゲハモドキも同じように、虎の威…ならぬジャコウアゲハの威を借りた…。そう考えれば、アゲハモドキの「モドキ」という命名は見事といえるかもしれない。
 だが、このあたりでジャコウアゲハを見たという記憶がない。もしも、アゲハモドキがジャコウアゲハの威を借りるとすれば、本物のジャコウアゲハがいなければ何の効果も期待できないような気がする。それとも、鳥たちのDNAにはすでに、「ジャコウアゲハは食してはならぬ」とでも書き込まれているというのだろうか。あるいは、遠くから渡ってきた鳥たちが情報を伝えていくのだろうか。
 自然の不思議は奥が深い。






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