2013年6月
6月のカマキリ



マミジロハエトリとカマキリの幼生が正面衝突
2013.6.14. 東吾妻町萩生


 不意に、草の上にいたハエトリグモと眼があった。
 家の周りでもよく見かけるマミジロハエトリだ。よく見れば、小さなカマキリの幼生を捕まえている。
 眼があったと思った瞬間、「見つかってしまった!」とでも言うように、そのままの格好で、1〜2cmくらい後ずさりしていって、じっとまたこちらを見ている。
 ハエトリグモは英語では「jumping spider」と呼ばれる。網を張ることなく、ぴょんぴょんと跳びはねながら移動し、狩りをして獲物を捕まえる徘徊性のクモである。眼が合ったと感じた大きな眼は、8個もある眼のうちの2つで、主眼と呼ばれている。その他の6つの眼は主眼に比べて小さく、どこにあるのかすぐにはわからないくらいだが、よく見れば主眼の両脇と、主眼の後方に4つ並んでいるのが見つかる。基本的にクモの眼は8個あるのだ。
 ヒトは2つの眼を使って、脳の中で三角測量のようにして距離感をつかんでいるが、このハエトリグモもぴょんと飛びかかってハンティングをするのだから、その距離感は重要である。測量に使われるのは、大きな2つの主眼だろう。この主眼は色さえも識別できるというからかなりの優れものである。
 それにしてもハエトリグモのジャンプ力は素晴らしい。一気に10cm以上を飛んでしまうことさえある。まるで瞬間移動をしているようである。とてもクモの仲間とは思えない。
 一方、マミジロハエトリにとらえられたカマキリの幼生。まだ体長1cmといったところで、種類はわからない。今までにここで見つけたカマキリには、オオカマキリ、コカマキリ、ハラビロカマキリといったカマキリたちがいるから、これらのうちのどれかだろうか。
 カマキリの子は卵嚢の中から数百匹が一斉に出てくる。この時期は、そんな小さなカマキリたちを見かけることが多い。だが、その多くは成体になる前にほとんどが補食されたりしていなくなってしまう。秋まで生きて子孫を残す個体は数パーセントというところだろう。
 小学生の頃、秋から冬にかけて、ミカンの入っていた段ボールの箱にこのカマキリの卵嚢を集めていたときがある。それがカマキリの卵であることはわかっていたし、そこからたくさんのカマキリが出てくるということも知っていた。だが、外で遊んでいて、カマキリの卵嚢を見つけると、採ってきては段ボールの箱に入れていたのである。段ボールのミカン箱の半分くらいがカマキリの卵嚢でいっぱいになったように記憶している。
 その結末は想像の通りである。同じような季節に、小さな姿をしたカマキリが一斉にあふれ出てきた。100個以上はあった卵嚢からそれぞれ数百匹の幼生が出てきたとすると、数万匹の幼生が段ボールの箱からはい出てきたことになる。このころ、家の周りにはまるでアリのように小さなカマキリが群がっていた。だが、その小さな子どものカマキリがそのまま大人になるわけもなく、秋にはやはり数匹のカマキリを見かけるに過ぎなくなっていた。生存競争は普段以上の激しさだったに違いない。なにしろ、周りにはたくさんの凶悪なライバルがいるのだ。究極の弱肉強食の世界が半年にわたって展開されていたことだろう。


体長1cmほどの小さなカマキり
 カマキリもハエトリグモも生まれながらのハンターだ。
 この季節、カマキリはハエトリグモには敵わない。だが、あと少し時間が流れれば、その立場は逆転する。ハエトリグモの大きさはもうそうは変わらないが、カマキリは飛躍的に大きく成長していく。そうなってしまうと、もうハエトリグモに勝ち目はない。ハエトリグモに残されているのは、あの素早いジャンプでカマキリから逃げていくだけだ。
 今は、カマキリにとって試練の時なのである。







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