2013年6月
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雑木林の入り口に自然に生えてきたムラサキシキブ。ムラサキシキブは雑木林の周囲を囲むようにしてあちこちにあるので、そう珍しい植物でもないが、秋になると紫色の小さな実をたくさんつけて、花の時期よりも目にする機会が多くなる。だが、この時期には実はもちろんのこと、花もつけていないので、そこにムラサキシキブがあったとしても、なかなか気がつくことは少ない。 そのムラサキシキブの葉に1匹のカメノコハムシの仲間がくっついているのを見つけた。カメノコハムシはハムシの仲間ではあるけれど、一見して他のハムシとは違うことがわかる。円形に近い形と、平たい笠をかぶったような姿。その笠は透明なプラスチックでできているのではないかと思えるようなものだ。本体?はその透明な笠の下にある。こんなに特徴的なハムシはこのカメノコハムシ一族以外にはそうはいない。 とはいえ、日本中にはこの仲間が20種類以上いるらしい。 見分けるポイントは、透明なプラスチックのような殻の下の黒く見える部分がどうなっているか。それだけでおよその見当はつく。このカメノコハムシの背中の黒い部分は下の部分が両脇まで伸びているから、イチモンジカメノコハムシか、セモンジンガサハムシだろう。そして、何の植物が好みかということでも絞り込みができる。ムラサキシキブを好むのはイチモンジカメノコハムシ Thlaspida cribrosa だ。 とくに希少種というわけではない。むしろ、普通に見られる昆虫らしい。 ところで、ハムシの仲間は、逃げるときにはすぐに葉の上や下から転がり落ちて姿を眩ます、とイタドリハムシのところで書いたけれど、このイチモンジカメノコハムシはちょっと違った。近づいてもそのまま。カメラのレンズを近づけてもそのまま。ついている葉をつまんでみてもそのままの格好で動こうとはしない。文字通り、亀のように首をすくめて、嵐が過ぎ去るのをじっと耐えるというような感じだ。あるいは、まだ朝のうちで体温が低くて、動こうにも動けなかったということも考えられなくもないが、他のハムシたちがさっさと逃げていくのだから、それもあまりありそうにない。テントウムシのように忌避物質を噴射するような身を守るための隠し技をもっているということも聞いたことがない。
翌日、まだ彼はそこにいるのだろうか、と思って同じ場所へ行ってみると、数枚の葉を移動したただけで、相変わらずの姿でそこにいた。 その翌日も。少しずつ移動しながら、小さな穴を開け続けている。いったい、いつ動いているのだろう。 いなくなってしまったのは発見から3日目のことだった。どうせ近くにいるのだろうと、高をくくっていたのだが、いなくなった翌日、さらに翌日とそのムラサキシキブとその周辺を探したのだが、ついに見つけることができなかった。やはり昆虫である。イチモンジカメノコハムシにも脚はあるし翅もある。 イチモンジカメノコハムシが消えたムラサキシキブの葉には小さな穴だけが残された。 直径5〜7mmくらいの小さな楕円形の穴。葉の端から囓るというのではなく、葉に穴を開けるように囓っている。ケムシやイモムシが端から囓っていったような無惨な葉ではなく、オトシブミやチョッキリが切り刻んだような葉でもなく、ただ同じような形の小さな穴。それにしても、他のケムシやイモムシに比べたらあまりにささやかな食い跡である。 林の中の植物の葉にはその多くに大小さまざまな大きさの穴が開いているけれど、その一つ一つの穴や囓り跡には、それを作り出した生物たちの個性があるのだと、イチモンジカメノコハムシとムラサキシキブの葉が気付かせてくれる。 |
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