2013.5.

イタドリハムシ



イタドリハムシ   2013.5.24. 榛名山西麓

 雑木林の入り口ともいえる林の縁の、いつものところに生えだしたイタドリ。そのイタドリの葉の上に、黒地にオレンジ色の模様の入った甲虫がいくつものっているのが遠目でも見えた。イタドリハムシだ。オレンジ色は新緑の緑色の中ではよく目だって見える。
 イタドリハムシはハムシの中ではかなり大きい方だ。5mmにも満たないハムシの仲間が多い中で、イタドリハムシは1cm近くになるものもいる。
 どうした理由なのか、ハムシの仲間には鮮やかな色彩を持つものが少なくない。もっとも、カミキリムシの仲間にしても、コガネムシの仲間にしても、鮮やかな色彩のものたちはいるもので、ハムシばかりが鮮やかというわけでもないようだが。それにしても、補食されるのを警戒するならば、地味に、質素に、と考えがちだが、自然が作り出したものは、そう単純な図式では収まらないらしい。
 ハムシは「葉虫」である。甲虫目ハムシ科に属するものたちを総称してそう呼ぶのだが、その名前が示すとおり、葉を食う。幼虫も、成虫も食べるのは葉だ。たまには茎を食ったり、根を食ったりするのもいるようだが、メインディッシュは葉ということになっている。したがって、彼らの姿を見るのは葉の上か下というのが定番である。
 そんな彼らを捕まえようとして手を伸ばすと、すかさずコロッと葉の上から転がり落ちる。いや、手を伸ばすよりも先に、気配を察したとたんにその多くがコロッと落ちていくのである。小さな彼らが草むらに紛れてしまうと、もう見つからない。その鮮やかな色彩であったとしても、それはうまく逃げるものだ。
 イタドリハムシも例にもれず、気配を察すると葉の上から落下していく。とはいえ、その大きさと色彩ゆえ、他のハムシに比べれば落ちたものを再発見する難度が下がるのは否めない。イタドリハムシの大きさと色彩は生きていくのに不利に働いているように思えてならないのだが、それでもイタドリハムシが補食されつくされて、いなくなってしまったという話は聞かない。
 ハムシたちの大きな敵の一つに農薬がある。人間がつくる作物である植物を食草としているハムシたちは、「害虫」としてマークされ、農薬攻撃を浴びせられたりする。人間の作る美味しい植物は、ハムシもファンが多いらしく、「害虫」に区分けされているハムシは多い。
 幸か不幸か、イタドリハムシが好んだのはイタドリだった。イタドリを栽培する農家というのはあまり聞いたことがなく、それゆえ、イタドリについたイタドリハムシたちを積極的に駆除しようという人もあまり見ない。イタドリハムシは昆虫に興味がない一般の人の目の届かないところでマイペースで生きているのかもしれない。人間を敵としなかったイタドリハムシの戦略は今のところ功を奏していると見なしてもよいだろうか。

 芽を出したイタドリはまたたく間に大きく成長してきた。そこにやって来ているイタドリハムシは、今年成虫になったものではなく、昨年の夏から冬を越して生き延びてきた者たちだ。昨年の夏に成虫になったまま、ずっとこの初夏の季節を待っていたのである。
 イタドリハムシのつかの間の春が今、過ぎていく。









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