2013.5.

ウバユリ



ウバユリの芽生え  …美味しそう

 日々、新緑の濃さが増していくような雑木林。その林床のいたるところにウバユリの新しい芽が顔を出している。ここへ移り住んだころは、そんなにたくさんのウバユリが生えていたようではなかったのだけれど、今年のこのウバユリの密度はこれまでで最大規模だ。

 ウバユリの姿は四季を通して楽しませてくれる。
 春はそのみずみずしいつやのある大きな葉。まだ食べたことはないが、とても美味しそうで、食してみたいという気にさせてくれる。
 夏になれば、その美味しそうな葉は見る影もなくなってしまうけれど、その代わりによい香りのする大きな白い花を見せてくれる。緑の濃くなった林床のあちこちに咲くウバユリの姿は一見に値するといえよう。
 そして、その花が終わると、今度はそこに実の入った緑色の殻がふくらみ始める。その殻も見応えのある姿なのである。
 やがて、秋にはその殻が次第に緑色を失って、茶色へと変わっていく。その中には次の世代の実が成熟しているのだ。その姿も何かのオブジェのようで、わかっていてもつい目がいってしまう存在感たっぷりの様子である。そして、その姿のまま、冬を迎え、雑木林の中に立ち続ける。雪の中に、雪の綿帽子を被って立つ様子は、冬のがらんとした寂しい雑木林の林床で目を引かないわけがない。
  

雪を被った冬のウバユリ
 今年の雑木林の林床に異常ともいえるくらいの芽生えたウバユリは、かなりの原因を人間が作っていたと言える。
 秋から冬にかけて、雑木林の林床の枯れ草を草刈り機で刈ったり、立ち枯れた木をチェーンソウで切り倒したりしているとき、茶色くなって実の入った殻を見かけると、つい指先でつついたり、はじいたりして中に入っている種を飛ばしていたのだ。種は中心角が50°〜60°の丸みを持った扇形をしていて、厚さはとても薄く、数mm程度のペラペラなものである。いかにも風に乗って飛んでいきそうな姿である。そしてその通り、殻を飛び出した種は、ひらひらとしばらくの間空中を飛んで、林床へと着地していくのだった。その様子がなにやら楽しくて、殻を見つけては種の飛行を楽しんでいたのである。
 一つの殻の中には数百個の種が入っているようだけれど、自然の状態ではそのすべてを放出することはないようで、春になってもまだ中に種が残されたまま、というのもよく見ている。ウバユリの殻は完全に開くことはなく、ある程度の強い風が吹かなければ中の種が飛び出すこともないのだろう。だから、人間の手で飛ばされたというのはとても効率のよい飛散だったに違いない。今年の芽生えの季節になる前の雑木林では、そのほとんどを飛ばしつくして、もういくらはじいてもウバユリの実は飛ばないくらいになっていたものである。その結果がこの春のウバユリの大量芽生えにつながったのだろう。
 さて、そのたくさんのウバユリが一斉に花をつけるかといえばそうでもないらしい。これまで芽生えたものはみんな花を咲かせると思って、どれが花をつけるか…などと見てはいなかったのだが、花を咲かせるのは芽生えから6〜8年ほどの時間が必要なのだとか。少しずつ球根を大きくしていって、やっと花を咲かせると、その個体は枯れるのだという。
 この秋から冬にかけて雑木林に散布されたウバユリの子供たちが花を咲かせるのはまだまだ先のことらしい。
 
 ところがである。何年か後にはウバユリの花でいっぱいになるという予想は、微妙に危うい予想であることがわかってきた。
 ある日、雑木林の中を歩いていると、林の中に黒い土が見えた。緑の林床に変わった雑木林では黒い土はとても違和感を感じる。明らかに何者かが掘った痕跡である。
 近づいて見てみると、確かに掘られている。だが、その脇には根元から切られたウバユリの葉が2枚落ちていた。その先にはウバユリの球根(鱗茎)があるはずだ。だが、その葉の根元は土の隠れる直前あたりで切れて、球根は見あたらない。これは… おそらくはイノシシの仕業だ。
 ウバユリの球根は食用になる。「百合根」に比べれば味は落ちるようだが、それでも人間が食用にするくらいだから、イノシシにとってもご馳走だろう。
 あたりを見回してみると、何ヶ所か、同じように掘り返した形跡がある。そのどれもその脇には根元がなくなったウバユリの葉が横たわっていた。ピンポイントでウバユリだけをねらって掘り出しているのである。もしかしたら、人間の仕業かも…と疑いたくなるような状況である。
 イノシシが餌を探した跡というのは、ところかまわず鼻先でひっくり返したり、深い穴を掘ったりすることが多いけれど、この穴は違う。イノシシはそこに美味しいものがあるとわかっていて、そこだけを掘っているのだ。
 一面にウバユリが芽生えてきたこの雑木林はイノシシにとって食料庫とでもいえそうな場所になってしまったのかもしれない。


掘り返されたウバユリ

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