2013年11月

アイソン彗星消滅 !?


 2013年11月29日、朝一番でやっとつながったNASAのHPにあるSOHO(Solar And Heliospheric Observatory)の最新画像にアイソン彗星の姿は無かった。
 SOHOというのは、1995年12月に打ち上げられ、太陽と地球のラグランジュポイントに置かれているヨーロッパ宇宙機関(ESA)とNASAが共同で開発した太陽観測衛星である。この衛星からは逐次、最新の太陽周辺の画像が送られてきていて、リアルタイムに近い形で、太陽の周りの太陽風やフレアの様子を見ることができるのである。そして、しばしば太陽に大接近してくる彗星の姿も見せてくれる。
 このSOHOの画像に11月27日からアイソン彗星が入り込んできていた。注目の的だったアイソン彗星の近日点通過を見届けようと、多くの彗星ウォッチャーたちがアクセスしたためか、なかなかつながらないSOHOのページだったが、その画像には右下の方向から長い尾を引きながら一直線に太陽に向かうアイソン彗星が素晴らしい姿で映し出されていた。
 29日、朝一番で見た画像の時刻は「2013/11/28 22:18」。この時刻はUT(世界時)だから、これに9時間を加えれば日本標準時になる。したがって、日本時間では11月29日の午前7時過ぎの画像ということになる。近日点(太陽に最接近する場所)通過は午前4:09(日本時間)だから、近日点を通過してからすでに3時間は過ぎている。
 期待した画像は、太陽の左上10時〜11時の方向に長い尾を伸ばしたアイソン彗星の姿だった。だが、そこに見えているのはわずかに白い塊のようなものが顔をのぞかせているだけだった。
 もしも、これが彗星の核であったのなら、そこからは太陽とは逆の方向に尾がのびていなければならないのに、そんなものはまったく見えなかった。ショッキングな画像である。おそらく、これは彗星の核ではない。
 彗星は太陽を通過できず、蒸発してしまったのかもしれない−!
 “We didn't see Comet ISON in SDO,”said Dean Pesnell, project scientist for NASA's Solar Dynamics Observatory. “So we think it must have broken up and evaporated before it reached perihelion.”
 NASAのHPのトップにはこんなコメントがSOHOの画像と共にあった。

                  NASAのHPより SOHOの画像

 中央の白い丸が太陽の位置。(太陽は遮蔽板で隠してある。)太陽から白く噴き出すように見えているのはコロナ。


 右下から2つにわかれた長い尾を引いて太陽に向かうアイソン彗星

 近日点通過後、太陽の11時の方向に何か白いものが見える…が、核からのびる尾は見当たらない。

 太陽を通過できないかもしれないという予想も確かにあった。太陽をかすめていくサングレイザータイプの彗星ではよくあることである。むしろ、ほとんどのサングレイザーの彗星は近日点を通過できずに太陽に消えていくといったほうがいい。だが、アイソンについては、核が大きいだろうと見積もられていて、1965年の池谷・関彗星や、2011年のラブジョイ彗星のように、近日点通過を生き残って、その後、長い尾を引くだろうと予想されていたのだった。今思えば、それは予想というよりも期待の方が大きかったのかもしれない。
 2013年・彗星イヤーの本命・アイソン彗星は消滅という思わぬ幕切れとなってしまった。

 近日点通過前、最後にアイソン彗星を見たのは11月22日の早朝のことだった。東の空が開けた榛名山の高根展望台でのことである。まだ大きな月が空にあって、彗星の淡い尾の光を見るには条件はよくなかったが、明るくなりつつある高崎市の低空、水沢山の左に見えたアイソン彗星の姿は近日点通過後に期待を抱かせるには十分な姿だった。
 そして、近日点を目指してグングンと太陽に近づいていく彗星は、見かけ上も、日々、東の地平線に近づき、日の出前のわずかな時間しか見るチャンスはなくなってきた。
 その2日後。彗星の位置からして、近日点前に見られるのはこの日くらいが最後になるだろうと予測し、近日点通過前の最後の姿を見に出かけたのだが、地平線まで晴れているように見えるのにもかかわらず、アイソン彗星の姿を捉えられなかった。よい目印の水星と土星があるというのに、いくら望遠鏡を振っても、2日間前に見たような明るい彗星の核は見つけることができなかったのである。
 だが、このときには近日点を通過した後の巨大な尾を引いた明るい彗星の姿が想像できて、消滅するなどという事態は頭のどこからも消え去っていた。


2013年11月22日 5:20 のアイソン彗星の姿  榛名山・高根展望台

画像処理をまったくしていない彗星の姿。双眼鏡ではちょうどこんな様子に見えた。

 1974年、このアイソン彗星と同じようにマイナス等級の大彗星になるだろうとマスコミが大騒ぎした彗星があった。コホーテク彗星である。3等級まで明るくなったということは後で知ったが、結局、マスコミが騒いだようには明るく見えず、当時の小学生には当然のように探し出すことはできなかった。だが、そのときの頭の中に作られた彗星のイメージと「コホーテク彗星」という名前は、今も消えることはない。

 アイソン彗星は、驚くような長い尾を多くの人に見せる代わりに、一つの天体が消滅するという壮大な出来事をリアルタイムで見せてくれた。中途半端に終わったコホーテク彗星よりも、ずっとそのインパクトは強い。
 さらに、近日点通過後のSOHOの画像を見ていくと、消滅したと思われたアイソン彗星の何かが、彗星の軌道上を過ぎ去って行く様子がとらえられているのがわかった。核そのものではなく、バラバラになった彗星の破片あるいは、放出された塵…?研究者はいくつかの可能性を指摘している。
 それは、まるで源義経が大陸へ生きのびていったという義経伝説のようだ。
 消滅したと思われているアイソン彗星は、実はまだ残っているかもしれない。大物の呼び声高くやってきて、近日点に消えたアイソン彗星は新たな伝説を作ったようである。

  ← の先にアイソン彗星の軌道に沿って飛び去る何かがある。





TOPへ戻る

扉へ戻る