2012年8月
フクロウの巣箱のお客様 2


 雑木林に掛けられた2つのフクロウの巣箱。
 その一つにテンが入っているのを見つけたのは2011年4月のことだった。こちらにはシジュウカラが営巣したこともあった。大きな巣箱は何かと野生の生物にとっては気になる存在であるらしい。
 もう一つの巣箱は家の裏の窓から見通せる所にある。フクロウの鳴き声がよく聞こえてくるのはこの方向であることが多い。だからフクロウが入ってくれる可能性が高いと思っているのはこちらの方なのだが、今までこちらにはこれといって変わったことが観察できたことはなかった。

 フクロウにとって、8月はすでに巣箱を必要としない季節である。
 8月の中旬。すっかり生い茂った夏草をかき分けながら、まだ何も入ったところを見たことのない方のフクロウの巣箱の下を通りかかったときのことである。
 巣箱の掛けられたクリの木から10mも離れていないところで、何気なく巣箱を見た。すると、どうもいつもの巣箱の穴の形が違うように見えた。こちらの巣箱の穴は丸ではなく、四角い形となっているのだが、その下の部分に落ちてきた枝でも引っかかっているのではないかという様子に見えたのだ。あれ?と思って、よく見ると、大きな目が見えた。枝などではなく、そこには何者かが顔をのぞかせていたのである。
 印象的なのは黒い大きな目だった。その目はこちらを見ているようではない。もっと遠くを見ているように見えたのだが、間違いなく、こちらの存在には気づいているはずだ。
 こんな巣箱の中にいるとしたらまたテンだろうか、と一瞬思ったのだけれど、テンの顔のようにはとても見えない。ハクビシンも木登りは上手くて、巣箱に入ることがあるという話を聞いたことがあるけれど、ハクビシンの特徴の顔の真ん中にある白いラインは見えなかった。
 デジカメで撮影して、画像を拡大してその顔を見てみた。
 大きな目と、耳の下から延びる白いライン、そして大きな鼻、手には鋭い爪も見える。やはり明らかにテンやハクビシンとは違う。テンやハクビシンは食肉目らしくどこか鋭い顔つきをしているのに、巣箱からのぞいたこの顔は可愛い顔をしていた。
 家に帰って図鑑と照らし合わると正体はすぐにわかった。ムササビである。
 ムササビはリス科の動物で、草食をする。肉食をするテンやハクビシンとは顔つきが違うのもうなずけるというものだ。それにしても、夜行性のはずのムササビがどうして巣箱から外をのぞいていたのだろうか。
 ムササビは以前から、もしかしたら林にいるかも…、という疑惑の存在だった。それは、暗くなるとときどき林の中から聞こえてくる「ギャー ギャー」というものすごい声からの推測だった。図鑑などではムササビの声がカタカナでいろいろと書かれて、説明もされているののだけれど、やはり耳で聞いてみなければわからないもので、インターネットなどで調べてもはっきりそれとわかるような声を聞くことはできていなかった。そして、その「ギャー ギャー」という声は明らかにフクロウとわかる鳴き声と一緒に聞こえてくることが多いので、たぶん、フクロウの別の鳴き声だろうということに落ち着きつつあるところだった。だが、ここにきて、また事態は一転。ムササビの姿を見たとなれば、また、その声はどっちのものなのだろうという疑問が甦ってくる。
 ところで、ムササビといえば空飛ぶ哺乳類として有名な存在である。もちろん鳥のように飛べるというわけではなく、グライダーのように滑空するわけだが、その姿は空飛ぶ座布団にたとえられることもある。ムササビがすぐそこにいるとなれば、やはりその空飛ぶ座布団の姿は見てみたいものである。だがその後、その巣箱を注目して見ているのだが一度姿を見かけただけで、再度の目撃はまだない。姿を見られたのがショックで引っ越ししてしまったのだろうか。それとも、ムササビの巣は一つだけというわけではなく、1匹が複数持っていて、泊まりあるくというから、別荘としては使ってくれているのだろうか。
 天敵・フクロウの巣箱に入り込んだムササビ。ムササビにはそこにいてほしいし、フクロウには営巣してほしい…。ムササビとフクロウのハウス・シェアリングが成立するはずもなく、ムササビの身を案じつつ、フクロウを待つ、なんとも複雑な気持ちとなってしまった榛名山麓のフクロウの巣箱である。




巣箱から顔をのぞかせたムササビ




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