2012年6月

金星の太陽面通過


 金環食の16日後。空の上では、今度は金星が太陽の前面を横切っていくシーンが見られるはずだった。
 月食や日食は地球規模で考えれば、数年、あるいは毎年と言っていいくらいにどこかで起こっていて、どうしても見たいとなれば、そこへ行けば見られる可能性がある。だが、金星の太陽面通過はそれとは比べものにならないくらい希な現象だった。
 次は105年後。
 「日本で」ではない「地球上で」である。地球にいる限り105年先まで金星と太陽が重なって見えることはないのだ。今現在生きている人間、そして今日生まれた子供達でも、今後、死ぬまでにこの現象を見る確率は限りなく0に近い。
 しかし、天文現象では実はこんなことは意外とよくあることなのだ。
 良い例は彗星だ。有名なハレー彗星の周期は76年。ちょうど人の一生のうち一度くらい巡り会うことができる計算になる。非周期彗星とされる彗星に至っては、一度太陽に近づいたきり、もう二度と帰ってこない。有名な池谷・関彗星、ヘール・ボップ彗星、百武彗星など、みんなもう人類が見ることのできない彗星たちだ。ちょうどその時に出会った人のみが見られるのである。あるいは、すでに太陽にのみ込みれてしまった彗星、木星に衝突してしまった彗星、行方不明になってしまったものなど、彗星はその多くが一度きりの出会いとなる。
 それにしても、「次回は105年先」というこの数字は妙なリアリティを持っている。数千年後とか、数万年後とかの想像もつかないような時間ではなく、少し想像はつくけれど自分はそこに存在していない時間。
 この「105年後」という数字が宇宙での時間をあらためて教えてくれたような気がする。
 土星が太陽の周りを一回転してくるのに29年。準惑星となった冥王星では何と248年もかかるのだという。人間の一生の時間をかけてもまだ全然太陽を一周しきれないのだ。 宇宙に流れる時間は悠久なのだと思う。それに比べ、人間の生きている時間の何と短いことか。

 第四接触−金星が太陽の前面を通過し終わった直後。それまで頑なに太陽を隠していた雲の一部分が、それを待っていたかのように、切れた。得てしてそんなものである。雲を通して太陽の輪郭が肉眼でもわかるようになった。が、もちろんそこに金星の黒い影は無かった。
 クルマの中で晴れ間を待ちつつ、刻々と過ぎていく時間の流れをものすごく速く感じた雲の下の金星の太陽面通過の日であった。
 お楽しみは105年後である。


すべてが終わった後で顔を出した太陽  

 次回の金星の太陽面通過は2117年12月11日。
     水星の太陽面通過は2016年5月9日。(日本では見られない)
     日本で見られる水星の太陽面通過は2032年11月13日。




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