2012年5月

タヌキの溜糞 その後


 新緑に急速に変わりつつある雑木林の中を、ゆっくりと、いろいろなスミレを確認しながら歩いた。自然と視線は地表面で捜し物をするように進んでいくことになる。
 ヒナスミレは既に終わり、エイザンスミレもみずみずしい鮮やかさを失いつつあった。その代わりに、タチツボスミレ、アケボノスミレ、マルバスミレ、ツボスミレなどが美しい花を見せてくれていた。一株だけだったけれどサクラスミレも大きな花をつけているのを見つけることができた。のどかな春の明るい雑木林である。
 そのサクラスミレを見た直後のことだった。落葉の下からはいろいろな植物が芽を出しているのだが、その林床の一角に妙に密集した芽生えの場所が出現したのだ。何種類かの植物が超過密状態で芽を一斉に出しているような様子である。
 何事だろう…?と近づいてみると、そこはこの冬からあったタヌキの溜糞の場所だった。地面の小さな植物に集中して歩いていたので、いつの間にか溜糞の場所に来ていたのにも気づいていなかったのだった。
 しばらく来ない間に、溜糞の二つの山は成長を止めていたようだ。タヌキたちがここを放棄したのはいつのことなのか。以前心配していたとおり、やはり人の気配を察知して、この場所をやめてしまったのだろうか。
 溜糞が放棄され、季節は巡って芽生えの時期となり、溜糞の中からはたくさんの芽が出てきたというわけだ。植物にとっては、動物に種を運んでもらって、分布を広げるという戦略はここまでは大成功というところ。問題はこれらの芽生えの中で何が生き残るのかということになる。これだけ密度が濃いと、生存争いも熾烈なものになることは必至である。さらに、この時期は光が差し込んでくるからいいけれど、季節が進むと上空は高木の葉に覆われてしまう。陽樹が育つのは厳しいことだろう。タヌキが食べたおいしい果物のなる植物が生えればうれしいのだけれど、現実はそう簡単ではないかもしれない。
 林の中ではたまに一角だけ変わった植物が群落を作っている場所を見ることがある。普通に考えれば、最初の親となる植物が種を作って、それからだんだんと増えていったと考えるのだろうけれど、この溜糞の中から芽生えた植物の群れを見ると、それだけではないのだなあ、と気づかされる。この溜糞は使われなくなったとはいえ、まだしばらくは注目すべきポイントに変わりはない。
 雑木林の中をさらにウロウロしていると、その溜糞から100mも離れていない場所に新しい溜糞があった。まだ新しい糞が一番上に載っている。
 タヌキはいなくなってしまったわけではなく、どうやら畑を変えて種まきを続行中だったようである。


緑に覆われた2つの溜糞の山

この芽生えは何になるのだろうか




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