2012年11月

ムモンホソアシナガバチ


 雑木林のへりに置いておいたニホンミツバチの巣箱の屋根の部分が何者かによってひっくり返されていた。今年もミツバチは入ってはくれず、空のはずの巣箱である。
 前の晩にはそのあたりの暗闇をかなり大きな動物らしいのが駆け抜けていった音を聞いている。落葉を踏みしめる音とその移動速度からして、シカのような気がしたが、確かなことはわからない。もしかすると、巣箱の屋根を飛ばしていった犯人はそれだったかもしれない。
 ニホンミツバチの巣箱は大きなケヤキの空洞を利用したものだった。中はきれいな円筒形というわけではなく、自然にできた空洞がそのままの状態でやや複雑に入り組んでいる。 期待したニホンミツバチが入らずにシーズンを終わってからというもの、とくに気にかけるでもなく、そのまま置かれていたものだ。

 屋根の飛ばされた巣箱をのぞき込んでみると、驚いたことにハチがいた。それも十数匹が固まったような状態でじっとしている。一瞬、ミツバチかと喜びかけたが、ぬか喜びにもならないくらいすぐにそれがミツバチではないことはわかった。その色彩と形からして、ムモンホソアシナガバチかヒメホソアシナガバチだ。
 この状態からして越冬体制に違いない。とすればこれらはみんな女王バチなのだろうか。
 実は、その巣箱のすぐ近くには今年の夏から初秋にかけてムモンホソアシナガバチが巣を作っていた。ツノハシバミの枝に、目の高さくらいの場所である。
 ムモンホソアシナガバチとヒメホソアシナガバチはよく似ているけれど、顔面を見ればその区別はつく。顔面に黒い筋があればヒメホソアシナガバチ、無ければムモンホソアシナガバチである。そしてもう一つ。巣の形も違う。ヒメホソアシナガバチの巣は特徴的でとても長細く、一目でわかるような巣なのである。以前、この細長い巣を高崎市の牛伏山で見つけたことがある。
 そんなこともあったので、今年の夏、そこで女王バチがたった1匹で巣を作り始めたときに、ハチの顔面を確かめることもせず、しばらく経ってから巣の出来具合を見ることで「ヒメ」か「ムモン」かわかるだろうと無精な観察を始めたのだった。もちろん期待したのは「ヒメ」の細長い奇抜な巣であることは言うまでもない。
 だが、期待に反して、巣の形は一向に長く伸びていく気配は無かった。もしかして、最初の部分ができてから一気に長く伸びるのかも、と淡い期待もしたが、やはりムモンホソアシナガバチだったのである。
 そのムモンホソアシナガバチと判明した巣は、連れ合いが秋に登り窯を焚くというときに、危ないということで駆除されてしまっていた。
 ところが、秋が深まって、木々の枝から葉が落ちるようなときになって、同じツノハシバミの木のもっと上の方に、もうひとつ巣があるのがわかった。巣の形からして、これもムモンホソアシナガバチのものらしかったが、もうすでにハチの姿はなかった。この巣が、下の巣と同時並行で別の女王バチのもとで作られたのか、それとも、下の巣が駆除されてしまった後に生き残りが作ったものなのかはわからない。いずれにしても、ここはムモンホソアシナガバチが巣を作るのに適した場所で、巣から出た女王バチがこのあたりにいるだろうということは想像できた。
 ニホンミツバチの巣箱の中に入り込んだのは、顔を確認するまでもなくムモンホソアシナガバチだろう。晩秋に駆除してしまったせめてもの償いに、この冬はこの場所を提供してやろうか、などと思いながら巣箱の屋根を元に戻してやった。もちろん、ときどきはこの越冬個体たちの様子を見せてもらうつもりではあるけれど。
 それにしても、ニホンミツバチのために用意した巣には、ムモンホソアシナガバチ。フクロウのために用意した巣箱には、ムササビやらテン。どうもこちらの期待とは違ったお客様がやってくる。自然界の出来事はなかなか思ったようにはいかないものだ。

 ニホンミツバチの巣箱の中で1箇所に集まっていたムモンホソアシナガバチ
              2012.11.22. 



女王が1匹で巣を作り始めたころ
              2012.7.3.    
    



ちょっと大きくなってきた巣 
             2012.7.25.         



かなり大きくなってきた巣  2012.9.6.








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