2012年1月
榛名湖の変



雪原となった榛名湖    2012.1.21.

 2012年1月28日。榛名湖の氷上のワカサギ釣りの解禁の中止が榛名湖漁業組合から発表された。
 報道では、ワカサギの放射性物質の量を測定することができなかったため、との理由が伝えられている。放射性物質の量を測定するためには検体が200g(ワカサギの大きさによるが50〜200匹程度)が必要とされるのに、その量を集めることができなかったのだという。
 解禁中止を発表せざるを得なくなった1月28日。朝6:30から正午までの5時間半、漁業組合員・高崎市職員・群馬県職員の合計85人がかりで釣り上げたワカサギはわずか1匹だけだったとか。餌をつけずに釣ったのではないかと疑いたくなるほどの釣果である。 さらにニュースは続く。これまで2011年9月から20回にわたって検査のためのワカサギの試し釣りをしたが一度も十分な検体を確保するまでには至らなかったという驚くべき事実。
 これまで、赤城山の大沼のワカサギで基準値を超えるセシウムが検出されたというニュースは伝えられても、榛名湖についてはどこにも情報が見つからなかった。その理由がこれだったのだ。
 調べようにもワカサギがいない…!?
 2011年春、漁業組合は卵9000万粒を榛名湖に放流し、その後、稚魚も確認されているという。本当にワカサギが消えたとすればその後のことだろうか。

 いうまでもなく、榛名湖は榛名山の山頂部に形成されたカルデラ湖である。榛名湖の水は榛名カルデラ内部に降った雨が集まったもの。榛名湖を取り囲むようにある外輪山の内側に降った雨は、一部は沼尾川に直接流れ込むものがあるものの、そのほとんどが榛名湖へと集まってくる。そして、そこから流れ出すのはただ一つ沼尾川だけである。
 福島原発から流れ出た放射性物質がここへやってきているのは否定できない。というよりもほぼ間違いなくやってきている。群馬大学の早川由起夫教授作成の汚染マップ(5訂版2011年12月9日)では榛名山の山頂付近は0.125μSv/h以上の領域に入っている。これは2011年3月に地表に落ちた放射性物質の放射線量を表しているのだという。
 現在は雨風によって、そして流水によって放射性物質も移動しているだろうけれど、榛名カルデラ内に落ちた放射性物質の移動先は、そのほとんどが榛名湖。もちろん、すべてが榛名湖へ到達しているわけもないが、榛名湖の方向へと移動中であることを想像するのは難しいことではない。
 ワカサギ解禁中止が発表される前、榛名湖畔の放射線量を測ってみた。まだ雪に覆われる前のことである。計測に使ったのはSHWYB社のSW83A・RADIATION MONITORという中国製のガイガーカウンター。福島原発の事故が起こったときにはものすごく高価な放射線測定器しかなかったが、その後需要が高まったのか、安価な放射線測定器がたくさん出回るようになっていた。このガイガーカウンターもそんなものの一つである。安価とはいえ、放射線を感知してくれることに変わりない。絶対的な測定値としては参考にならないかもしれないが、相対的にどこが高いということはこれでもわかる。
 湖畔の砂浜では0.10μSv/hあたりの値を示した。これは問題ない。ところが、少し湖岸線から離れた枯れ草の上では0.18μSv/h程度に上がる。場所によってはもっと高い数値を示したところもあった。湖岸線の砂浜の上に降ってきた放射性物質はすでに榛名湖の中へ流入してしまったのだろう。 
 放射性物質について生物濃縮が指摘されているが、ここでは生物ではなく、地形的な放射性物質の濃縮を警戒しなければならない。
 放射性物質− 173Cs と仮定すれば、その原子量は173。それに対して水・HOの分子量はわずか18。流入した圧倒的に重い173Csはおそらく榛名湖の湖底に蓄積している。湖底に堆積した173Csからの放射線は湖面より上ではほとんど観測されないだろうが、そこに生息している水中の生物にとっては予想がつかない。とくに底生の生物には少なからず影響があることだろう。そして、そこに生物濃縮の問題がからんでくる。
 湖は海とは違う。海が開放系ならば、湖は閉鎖系。流れ出る流路が一つというのはかなり高いレベルの閉鎖系といえそうだ。そこへ天から降ってきた放射性物質。海ならば拡散し、濃度も下がることが期待できるが、カルデラ湖では濃縮を心配しなければならない。
 消えたワカサギとの因果関係は何かあるのだろうか。




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