2011年8月

幼虫ウォッチング



アケビコノハの幼虫

 アオツヅラフジのツルに大きな目玉模様を持った大きなイモムシが逆さになってくっついていた。一度見たら忘れられないようなその姿と模様はアケビコノハの幼虫である。体を折り曲げて動かない独特の姿はこの幼虫のお得意のポーズでもある。数ある昆虫の幼虫の中でも奇怪な姿ではベスト10以内にランクされることだろう。

 イモムシ・毛虫が嫌いな人は多い。毛虫の中には毒を持っているものもいて、実害を伴ってくるので、嫌われてもしかたないのではある。成虫になれば、蝶や蛾になって、その嫌われ度は減るようだが、それでも蛾は好感度をそう上げることもない不幸な存在だ。もっとも、当の虫たちはそんなことを不幸と感じているはずもないのだろうけれど。
 そんな世間の嫌われ者のイモムシ・毛虫だけれど、よくよく見ると実に見ごたえのある者たちなのだ。イモムシ・毛虫とひとくくりにされてしまうことが多いけれど、それぞれもう少し詳しく言えば「〇○チョウの幼虫」「○○ガの幼虫」である。
 幼虫は弱い存在だ。成虫ならば翅を持っていて、天敵に見つかったときでも飛んで逃げることもできるが、幼虫たちは見つかったら最後、逃げようがない。同じように身動きのできないサナギの状態も同じだが、サナギは食う必要がないので、ひたすら見つからないようなところで時が過ぎるのを待つという方法をとる。一方、幼虫は鳥などに見つからないようにしながらも、葉を食うということをしなければ成長できないので、多少の危険を冒しても食い物のあるところへ移動し、食う。
 卵から孵った幼虫は、そのほとんどが捕食され、成虫になるまで成長できるのはほんの一握りでしかないというのはよく聞く話である。
 だが、そんな幼虫たちもただ食われているわけでもないらしい。それぞれが身を守るけなげな方法を工夫しているようで、それがどの程度効果があるのか不明だが、とても興味深いのである。

 アケビコノハの幼虫にあった目玉模様は、蝶や蛾にときどき見られる模様である。農作物などの鳥避けとしてもこの目玉模様を畑の周りに置いてあるところもあったりする。これが商品化されているくらいだから、鳥はこの模様が苦手なのだろう。この目玉は幼虫に限ったことではなく、蝶や蛾の成虫の翅の模様にも採用されている。どれほどの効果があるのかわからないが、たしかにこの目玉模様はインパクトがあって、人間が見ても一瞬びっくりするのだ。
 榛名山麓の我が家の周囲でも、アケビコノハの幼虫の他にも、スズメガの一種のコスズメやセスジスズメ、カキの葉にたくさんいてびっくりしたオオゴマダラエダシャクなど何種類かの幼虫を見ることができる。
 その他、幼虫たちの身を守る手段は、“触れると痛い目にあうぞ!”という攻撃的なのもある。触るとかゆくなったり、痛くなったりする毛虫たちだ。ドクガの仲間やイラガの仲間など、実害を及ぼすヤバい奴らである。家の周りでもドクガ、チャドクガなどが葉の裏や枝に同化して潜んでいたりする。連れ合いはこんな奴らにひどい目にあったようだ。
 中には姿だけで実は触っても大丈夫というのもいる。タテハチョウの仲間の幼虫などは棘のようなものが体中に生えていて、見るからになにか攻撃的なことをしそうなのだが、これは形だけで実害はない。ドクガの仲間でも、いかにも悪いことをしそうなマイマイガやカシワマイマイなども毒はないらしい。昆虫の世界では見せかけだけ、というのが結構多いのだ。もしかしたら、幼虫たちはあえて嫌われるような姿となって、自らの身を守っているのかもしれない。
 その他にも、危機を感じると頭の先からオレンジ色の角を出すアゲハの幼虫、体の中に毒をため込んでいて「食ったら危ない」というジャコウアゲハやヒョウモンエダシャクの幼虫、音をたてるウスタビガの幼虫、臭いを出すのもいる。レパートリーは多岐にわたっているのである。

 7月の終わりに見つけたアケビコノハの幼虫。
 見つけたときには茶色の体だったのに、気がつけば緑色に変わっていた。目玉の模様などは同じなのに、地の色が茶色から緑色に変わったのだ。別の個体の可能性もないこともないが、たぶんこれは同じ個体だろう。
 幼虫たちは脱皮を繰り返しながら成長していくのである。卵から孵ったばかりの一齢から、脱皮をするたびに二齢、三齢、四齢、と大きくなり、最後に終齢幼虫である。おそらく、アケビコノハの幼虫は最後の脱皮をして、茶色から緑色へと変わったのだ。
幼虫からサナギ、サナギから成虫と、昆虫の変化は劇的だけれど、実は幼虫の間も脱皮するごとにその姿が少しずつ変わっていく。
 今までイモムシ・毛虫として見てきたものも、幼虫として見てみると、いろいろなものが見えてくるから不思議なものだ。生き残るための術、脱皮するごとに変わっていく模様、イモムシ・毛虫もよく見ればそれなりに奥が深いのである。

目玉を持つコスズメの幼虫



オオゴマダラエダシャクの幼虫



棘で武装したルリタテハの幼虫



こちらはシータテハの幼虫



いつのまにか緑になっていたアケビコノハ



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