2011年6月

桜 



 今年はサクランボが豊作なのだと職場で話題となった。
 そういえば榛名山麓の桜もよく咲いていた。あの桜の花は実になったのだろうか。林の中の桜は花の季節が終わってしまうと、なかなか注目されることは少ない。山麓の雑木林はすでに鬱蒼とした森のようになってきていて、おまけに異常に早い梅雨入りで、頻繁に降る雨が下草を湿らせていた。うかつに足を踏み入れればすぐに葉についた雨露で濡れてしまいそうである。
 手近なところで、家のすぐ近くに大きくなったエドヒガンを見てみた。春先、まだ雑木林に葉もほとんど生えそろっていない頃、ピンク色の小さな花をたくさんつけていたエドヒガンである。
 そこにはこれまでにないほどたくさんの小さなサクランボがついていた。もちろん、サクランボをとるためのミザクラに比べればたいしたことはないのだが、それでもこの木にとって最多の記録となるような個数だ。
 「食べられるの?」と言いつつ、すでに連れ合いは口の中に一粒を放り込んでいた。と、同時に「苦ーい」の声。
 どれほどの苦さなのだろうか…?と思って、一番熟していそうなものを選んで続いて口に入れてみた。エドヒガンの実は赤いものが目立っているけれど、黒いものもある。熟しているのは黒いもののようだ。
 果実を噛むと一瞬甘い味が口のなかに広がり、やがて渋さがじわじわと広がってきた。とても美味いとは言いたくない味である。けれどこの時期、このサクラの枝にはシジュウカラやヒヨドリなどたくさんの鳥たちがやってきているのを見ている。この実をついばんでいたのだろう。鳥たちには渋いという味覚はないのだろうか。よく見れば、上の方の枝にも実はたくさんついていたけれど、かなり食べられているようだった。
 つづいて、今年判明したカスミザクラを見てみた。ここにもいくつかのサクランボがくっついていたが、まだ青い状態だ。花期が遅いので、当然ながら実になるのも遅いのである。試食はまだまだ先のことになるだろう。たぶん、鳥のお腹に入るのが先だろうけれど。
 鬱蒼とした雑木林の中でも赤い実がついていた。この時期、ウグイスカグラの実もついているのだが、明らかにそれではなかった。葉を見てみると、裏表にびっしりと毛が生えている。そして葉柄にも薄茶色の毛。これはチョウジザクラだろう。見つけた実はたった一つだけ。T字型の花がまばらにつくだけで、おまけに林の中とあっては、花粉を仲介してくれる昆虫も少ないのかもしれない。
 最後にソメイヨシノを期待せずに見に行った。ソメイヨシノは実を付けないと聞いたことがある。エドヒガンとオオシマザクラの交雑種のため、実をつけないのだと。ところが、見てびっくり。いくつかの赤いサクランボがソメイヨシノにもついているではないか。ソメイヨシノも実を付けることがあるのだ。
 調べてみると、どうもソメイヨシノは自家受粉はできないけれど、エドヒガンやオオシマザクラとは交雑することがあるらしいことがわかった。もっとも、その種からはソメイヨシノはできないという。山麓に植えられたソメイヨシノはここに自生する他のサクラと交雑してサクランボを作ったのだ。そういえば、ソメイヨシノの花が咲いているときには、花の周りでうるさいくらいのハチたちがブンブンと飛び回っていた。あの半端ではない数のハチたちならば、いく匹かは確実に他のサクラの花を経由してやってきたことだろう。
 ソメイヨシノが作ったサクランボからはいったいどんなサクラが芽生えてくるのだろうか。



エドヒガンのサクランボ



カスミザクラのまだ青いサクランボ



柄にも毛の生えたチョウジザクラのサクランボ



ソメイヨシノのサクランボ




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