榛名山は安山岩でできている、と先に書いた。だが、ただ火山が噴火して、溶岩が流れ出して山ができたという単純なものでもない。 何人もの研究者が組み立てた榛名山形成のシナリオはかなり複雑なものがある。 それによると、最初の榛名山ができたのは今から50万年〜25万年前の火山活動とされる。そのころの榛名山は富士山のような立派な成層火山で、標高は2500mにも達していたと考えられている。 やがて、その古榛名山ともいうべき山は中心が陥没し、カルデラを形成した。それも単純に中心部が陥没するというものではなく、何重にも断層を作りながら、今の榛名湖を中心とした同心円状に陥没したというのだ。その外輪山が掃部ガ岳や烏帽子岳や天狗山などの山頂を形成している。榛名湖の周囲の山々はもちろんのこと、その外側にもいくつものピークがあるのは、この同心円状に何重にも陥没したためだ。 そして5万年前。再び活発になった火山活動により、カルデラ内に榛名富士、そしてカルデラの外に水沢山、二ツ岳などが溶岩ドームとして出現したとされる。これらの新しい山々はいわば新榛名山である。 こんなわけで、一口に榛名山といっても、こんな形になるまで、噴火と陥没を繰り返しながら変化してきた経緯がある。転がっている安山岩ひとつをとっても、その安山岩がいつの時代に噴火したもので、どの火口から飛び出してきたものなのか、様々な歴史を持っているのだ。 榛名山南西麓の地下28mから出てきた安山岩は、どこからやってきた溶岩なのだろうか。おそらく、古榛名山とされる最初の榛名山を形成していた溶岩だろうということは想像できる。 2007年に旧榛名町から出された「榛名町誌」では、この古榛名山を形成していた岩石を、新しい順に天狗山グループ・三ツ峰山グループ・鏡台山グループの3つと放射状岩脈群、安山岩質の溶岩ドームに分けている。たぶん、このどこかに入るのだろうが、それを判断するのは、サンプルを薄片にして鉱物顕微鏡で観察するしかない。そして、それを判断できるのは、それぞれのグループの特徴をよく把握しているごく一部の人のみだろう。 そして、問題の水である。 最も水のありそうな溶岩の表面はすでに通り越してしまった。ここでの選択肢は2つ。このまま掘り続けるか、別の所を掘るか、である。 溶岩を掘り抜いたときに出てくる水は(出てくるとすれば)温泉水の可能性もある。地下100mそこらでは温水ということはまず考えられないから、冷水、つまり鉱泉である。古い溶岩の中にあった水は火山のいろいろな成分が溶け出し、飲料用として使えない可能性がある。現在掘っている溶岩が新しいものであればその可能性は低くなるというが、そのためにはこの溶岩が何物であるかが重要なポイントとなる。残念ながら、それを判断する力は私にはない。 もう一つの、別の所を掘るという選択肢を選んだ場合、成否は地下28m付近の溶岩が始まる場所で決まる。掘った場所が溶岩の窪んだ場所であれば、水がある可能性が高いが、これも掘ってみなければわからない。 ただ、堀り抜くということを選択した場合の方がリスクは大きいかもしれない。 正攻法ならば、掘り抜いてみて、溶岩の下に何があるのかを確かめて、ダメだったら別の所を掘る、なのだろうが、何せ1日掘っても30cmである。 はっきり言って、どちらが良いのか判断はとてもし難い。 一日も早く水が出てくることを願うばかりである。
我々は榛名山麓で生活している。だが、普段、その足元に何があるのかということは、あまり気にしていない。山麓にいる限りは、石ころとして安山岩はあっても、巨大な岩体として安山岩を見ることはあまりない。岩体として見るのは、もっと急峻な「山」の部分になってからだ。 足元に見えるのは、浅間山からの火山灰であったり、赤茶色のロームであったり、榛名山からの軽石や火山灰、沢が運んできた土石流堆積物などで、そこに溶岩の姿は見えない。 だが、わずか30m地下には、その昔、榛名山が流した溶岩流が眠っているのだ。 榛名山麓に生きるということは、溶岩の上で生きていることに他ならないということをこのボーリングは思い出させてくれた。 |
追記 2011年3月9日、さらに掘り進んだ結果、深さ106m地点で水が出たということでした。 |
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