地形図を眺めていると、正三角形の真ん中に点が入った三角点マークが所々に目に入ってくる。三角点がどこにあるのか、という目であらためて地形図を見直すとその数に驚くものである。榛名山の数あるピークにもたくさんの三角点が置かれている。 榛名富士1390.3m、水沢山1194.4m、李ヶ岳1292.3m、居鞍岳1340.1m、古賀良山981.5m、五万石1060.1m、音羽山1014.7m、種山909.2mといったところである。意外にも榛名山最高峰の掃部ヶ岳1449mにはない。榛名山のもう一つの雄ともいうべき相馬山にもない。 その相馬山の東南東、水平距離で約1kmのところにも三角点を持つピークがある。相馬山から東へ延びる尾根が南東へ曲がっていった尾根上で、その標高は1215.1m。国土地理院の地形図には山の名前は書かれていない。榛名山の多くのピークには名前が与えられているのに、三角点が置かれているというのにこのピークには名前がないのだ。いわば、“榛名山の忘れられた山”といったところか。 ところが、このあたりをあちこち探索しているWさんから「柏木山」の名前を教えてもらった。調べてみると、このあたりの低山歩きの間ではちょっと有名なクタビレ爺イさんが、ここの三角点の點名が「柏木」であるということから自らのHPの中で、仮称として「柏木山」の名前を与えているということがわかった。 |
Wさんからのお誘いで、この柏木山を経由して相馬山の東尾根から相馬山へ登るというちょっとひねりの入った山歩きに参加することになった。藪こぎ必至の地図読み登山である。 この“藪こぎ登山隊”は4人。誰が“隊長”というのは決まっていないようだが、実質的に隊長はWさん。登攀隊長ならぬ藪こぎ隊長がHさん。そして初参加というKさんと2度目の参加の私がヒラ隊員というところ。藪こぎ登山隊、あるいは隊長のニックネームから“わっと隊”と密かに命名しておくことにした。 |
“わっと隊”の面々が集合したのは10月の中旬のある日のこと。場所はクライミングのゲレンデとして知られる黒岩のそばの駐車スペースである。 ここから林道を少し下り、鷹ノ巣山の南面をぐるりと巻いている林道の入り口までのんびり歩く。以前、ガラメキ温泉を探しに出かけた見覚えのある林道だ。相変わらず、林道の入り口はゲートで閉じられている。もっとも、開いていても道は崩壊していて、自動車で中まで乗り入れるのはとてもできそうもないけれど。 ここで作戦会議を開く。どこから柏木山へ詰めるのか? 柏木山へのアプローチならば、そのままずっと林道を鷹ノ巣山の南面を巻いて行くのが一番楽だ。だが、W隊長の選択は鷹ノ巣山の北側のショートカット。榛名白沢から少し北へ遡行し、鷹ノ巣山と相馬山の鞍部を越えようというものだ。もちろん道はない。 柏木山の山頂を踏むだけであれば、伊香保の森林公園から相馬山東尾根を経由して、尾根伝いに行くのが一番楽そうなのだが、あえてそれをせず、困難なルートからの登頂を目指すW隊長ならではの選択というところか。 林道から榛名白沢に入る。先頭はもちろん藪こぎ隊長のHさん。トゲのあるバラ科のマント植物が行く手を遮る。ここはクマイチゴ地帯だ。ヤブを避けるようにしていくと、沢筋から少しずつ小さな尾根に追い上げられてしまった。 慎重に地形図を見ながら小さな尾根をちょっと行ったところで、現在地の確認。そこからは進路を東へとるようにして鷹ノ巣山と相馬山の鞍部を目指した。 地形図には現れないような小さな沢筋を何度か越え、傾斜が緩やかな地形となったところで、鞍部に到着。すると、そこに踏み跡が現れた。峠道のように、鞍部から東へ降りていく道。第一次藪こぎの終了である。その踏み跡を外さないように下っていくと、やがて鷹ノ巣山の東を流れる沢に出た。 沢からちょっと上がったところには石碑があった。見覚えのある石碑。それはそこが相馬山への登山道であることを示していた。今は使われていない昔の登山道である。とりあえず、鷹ノ巣山北側のショートカットの終了である。 そこでしばし再びの作戦会議。ここからが今回の最大の考えどころである。柏木山まで標高差約300m。W隊長はガラメキ温泉の方向へ続く林道を最後まで詰め、柏木山の南側から行こうという考え。H藪こぎ隊長は柏木山から南西に延びる尾根からのルートを推した。地形図を見ると、柏木山の南面には露岩を示す記号がいくつかある。場合によれば、これは障害となるかもしれない。一方、Hさんの推すルートには藪を予想させる「荒地」の記号があった。等高線の間隔はどちらも同じようなものだ。いずれにしても明瞭な尾根とはいえない。 とりあえず林道の方へ行ってみようということでほんの少し沢筋に下ってみると、すぐに地形図にはない林道が現れた。沢と平行するように上へ伸びる林道である。 ここで、また作戦会議。ここはH藪こぎ隊長の推すルートを採択となった。すなわち、少しこの林道を上がってみようと。 しばらく林道を行く。だが、期待に反して、林道は柏木山の方向へは登って行かない。そのまま行ったら相馬山直登ルートだ。GPSで確認しても柏木山から離れていく方向を示している。そこで、そこから柏木山の山頂の方向へルートを変えることにした。林道から離れ、東へ。それはH藪こぎ隊長の推すルートに近いものだったが、尾根を目指すのではなく、沢筋を突き上げていくルートだった。 林道から離れて山腹に取り付くと、なにやらクマの糞らしきもの。あるいはイノシシのものか?カモシカの糞も一緒にある。獣の臭いが漂ってくるような雰囲気の場所だ。 いくつかの小さな谷を横切って東へ東へと進む。そんな所をいくつか越えたところで、崩壊地のようになっている谷へ到達した。地形図には「く」の字のような形の崩壊地が描かれているが、この崩壊地の上部に当たる場所だろう。とすれば、このままその谷を詰めていけばよさそうだ。H藪こぎ隊長も納得している様子である。 やがて、沢筋に踏み跡が現れてきた。境界を示すと思われる赤い杭も。もうこうなれば先は見えた。 |
鷹ノ巣山北側のショートカット終了を確信した石碑 クマの落し物? 柏木山のプレートと三角点 三角点のそばにあった宮標石 |
そして、予想通り、程なくして稜線に到達した。予想通りでなかったのは、稜線へ抜けた場所が柏木山の南の鞍部だと思っていたのに、北の鞍部であったということだ。 そこから柏木山への山頂へはあっけない。はっきりとした道こそないけれど、標高差30m程度をツツジを中心とした低木をかいくぐっていけばあっという間に狭い山頂へたどり着いた。 振り返れば向こうには相馬山の尖った山頂があった。低木を漕いでいるときには全く気がつかなかったが、実は後は視界が開けていたのだ。狭い山頂には「柏木山」のプレート。そして三角点。その三角点の隣には、「宮」の文字が象形文字のようになって彫られている古ぼけた三角点と同じような石柱。あとで調べるとそれは「宮標石」というものだった。明治時代のものでここが皇室所有の土地であったことを示すものだったという。こんなものがあるとは、ここはやはり忘れられた山頂なのだ。 柏木山の山頂からはこれから行く相馬山のとんがりが際立って見えていた。 |
稜線を下って相馬山の東尾根へ |
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相馬山の東尾根の踏み跡を拾っていく |
閉ざされた登山道に残された鎖を登るW隊長 |
磨墨岩の烏天狗の前から沼の原を眺めるKさん(左)とH藪こぎ隊長(右) ヤブこぎの後で榛名山の喧噪を見ると、別世界のようだ |
WさんのHPはこちらです |
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