2009.9-2
謎のコウモリ


 雑木林の中に設置してある赤外線で反応する無人カメラには野生動物以外に様々なものが写し込まれてくる。野生動物をターゲットにしているのだが、一番カメラのシャッターを動かしているのはうちの猫“ミャア”だ。次いでそのほかの野良猫たち。ときにはどこかの知らない人が写っていたりして…。
 大体はセンサーが何に反応してシャッターが切れたかということはわかるのだが、何も対象が写っていない場合も多い。木漏れ日に反応したり、カメラの写野外で何者かが赤外線センサーに反応したりするのだろう。
 ところが、どうしてもわからない謎の物体?が写り込んできたことが何度かあった。
 ピンボケとなった白っぽいもの。最初、カメラに向かって光があたって、その光にセンサーが反応してシャッターが切れたのかと疑った。だが、その方向に車のヘッドライトや人工的な光が発せられるような可能性はない。林の中なのだ。何らかの発光体だとしたらとても気味の悪いものだ。すぐに“人魂”が頭の中に浮かんできた。暗い雑木林の中に浮かび上がる“ヒトダマ”を頭に思い描くとゾっとする。
 だが…。ここはちょっと現実的に考えてみる。ヒトダマが林の中に現れているなんて不気味すぎる。
 自ら光っているのではない、と仮定して考えてみることにする。写っている位置からすれば、飛んでいるもののように見える。対象だけがピンボケとなっているからカメラから相当近い位置で写しこまれたと考えられる。このカメラのレンズはパンフォーカスになっていて、よほど近い位置でなければピンボケにはならないのである。対象が真っ白く飛んでしまっているのも、とても近い位置でストロボの光を受けたと考えれば説明はつく。
 蛾のようなものだろうか。だが、蛾は赤外センサーには反応しないはずだ。このカメラのセンサーは熱の変化を感じ取って信号を送るのだ。センサーに反応するのは、恒温動物のように自ら熱を発するものである。可能性があるとすれば、野生動物が写野外でセンサーに反応し、シャッターが下りた瞬間にたまたまレンズの前に蛾のようなものが横切った場合である。つまり、センサーに感知された者と写った者が違うということだ。


無人カメラに写った謎の浮遊体 その1

無人カメラに写った謎の浮遊体 その2


9月。クリの木の下に設置しておいた無人カメラに、また何か空中に浮遊するものが写し込まれてきた。夜の時間帯にシャッターが切れたらしく、周辺は暗く、その浮遊物体だけが白く露出オーバーでピンボケに写っている。だが、今回はすぐにその正体は見当がついた。
 翼を拡げたコウモリである。
 ピンボケで露出オーバーだが、コウモリ特有の翼がわかり、耳が暗闇にピンと立っている様子がわかる。なんという種類だろうか。
 こんなピンボケ写真からその種類までわかるはずもないのだが、あーでもない、こーでもない…なんて推理するのは楽しいものだ。
 もうすこしなんとかならないかと思って、画像処理をしてみた。
 天体写真、とくに月面の写真などで使うことのある「アンシャープマスク」というフィルターをかけ、「トーンカーブ」で色調を調節し、さらに「シャープ」のフィルターをかけてみた。
 すると、ぼんやりとした輪郭だったものがしだいにシャープな姿となり、耳と鼻が明らかになってきた。間違いなくコウモリの姿だ。とくに画像処理の前にはよくわからなかった鼻の部分がはっきりとわかる。


ピンボケ・露出オーバーのコウモリ

左の写真を画像処理したもの


 大きさは…?
 この画像はデジカメではなく35mmのフィルムで撮影されている。使用したレンズは焦点距離28mm。固定焦点でピントは一応0.9mから∞まで合うことになっている。明らかにピントはずれているから0.9mよりもはるか前にコウモリはいたはずだ。
 35mmのフィルムで焦点距離28mmのレンズの画角は横幅で65°となる。このフィルムをノートリミングでプリントしてみると、画像の幅が12cmに対して、コウモリの翼の先から左端の切れているところまで7.2cm。単純に計算するとコウモリがフィルムの横幅で占めているのは約39°となる。コウモリの右翼が画面の中央にあるとして、コウモリがフィルムに写っている大きさを検討してみる。
 コウモリまでの距離が仮に50cmだったとすると、その大きさは大雑把な計算で、
        50×tan39°≒40.5 cm
 画像上で左翼は切れているから、実際はこれよりも大きい。
 同様に、コウモリまでの距離が40cmのときは大きさは32.3cm。距離が30cmのときは24.3cmである。
 しかし、これではカメラとコウモリとの距離をどうとるかによって値が大きく違ってしまうので、あまり目安にはならない。


日本に生息しているコウモリは33種類とも、35種類ともいわれる。だが、オオコウモリの仲間は熱帯性で、榛名山麓にいるはずもないので除外できる。同じように、その生息場所で明らかに除外できるものも少なくない。そうやって、候補を絞ってみると、榛名山麓にいる可能性のあるものは15種類くらいに絞り込むことができる。さらに特徴的な耳を持つウサギコウモリの耳とは明らかに違うから、これも除外して残り14種類。
 関東地方に住んでいて、いちばんポピュラーなものはイエコウモリとも呼ばれるアブラコウモリだ。荒川や利根川の広い河原で夕方飛び交っているのをよく見たものだ。これはコウモリの中では小さい方で、翼を拡げた大きさは20cmといったところ。写真のものはもっと大きそうだ。
 大きいものではキクガシラコウモリやヤマコウモリといった種類がある。これらは開翼すると40cmにもなる。見慣れたアブラコウモリに比べて大きい。こんなでかいのがバサバサ飛んでいればさぞや豪快なことだろう。

さて、不鮮明な写真ではここまでが限界。謎は残った。そして、このコウモリ以前に写った謎の浮遊体の正体も未だ不明。コウモリのようにも見えるし、そうでないようにも見える。はっきりしたことは、「ここにはコウモリがいる」という事実。これがヤマコウモリだったらうれしいなあ… などと思いながら、次はもっと鮮明な写真が撮れることに期待するのである。





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