12月のある日、榛名湖へアトリの写真を撮りに行ったついでに、気になっていたこのヒトモッコ山の山頂へ行ってみた。
湖岸の駐車場にクルマを停め、カメラを付けたフィールドスコープを三脚にとりつけ、それを担いで、鳥を探しながらヒトモッコ山の方へ向かう。最初は湖岸ぞいのビジターセンターへと通じている小道。その湖岸ぞいの散策路の途中から、一番なだらかそうで、障害物のなさそうな場所を選んでヒトモッコ山の山頂を目指した。最初から山頂へ通じている道など期待していない。それでも、ヤブこぎというほどの障害物はなかった。ところどころに雪が残っていて、背の低いまばらなササとまばらな低木と倒木がちょっとだけ邪魔をする程度。ただ、登山靴ではなく薄い生地でできた安い靴を履いてきてしまったため、ときどき枝や棘が靴を通して足まで届くことがあるのが不快だ。とはいえ、ほどなく傾斜も緩やかになり、山頂らしい場所へ達した。歩きだしてから10分もかかってはいないだろう。案の定、どこからも道らしいものは通じていない。明瞭な踏み跡らしいものもない。榛名富士を訪れる人はいても、ここへ足を踏み入れる人はごく稀な存在なのに違いない。
あたりを見回すと、「ヒトモッコ山」と書かれた山名標識が木に掛けられているのを見つけた。手作りの小さなものだが、そう古いものではない。こんな丘のような藪山でも標識があるとうれしいものだ。立派な標識よりもこんな山には小さな手作りの標識がよく似合う。
さらによく見ると低いササに隠れるようにして、祠の屋根らしい石材が苔むしてひっそりとあった。いつここに置かれたものなのか。時間は、ゆっくりとこの人工物をササで覆い、人の目から遠ざけようとしているように思えた。不思議なことに屋根以外の部分は見当たらない。埋もれているのか、無くなってしまったのか…。
この苔むした祠の一部を見ていると、榛名湖周辺の“今”の時間の流れからヒトモッコ山の時間の中に一瞬足を踏み入れてしまったかのような気持ちになってきた。
ヒトモッコ山のすぐ下では12月の恒例となった榛名湖のイルミネーションが準備されている。そして、自動車やオートバイが行きかい、馬車が観光客を乗せてポクポクと歩いている…。そこはまったくの世俗的な世界。時間に取り残されたようなヒトモッコ山の山頂とは異なる空間だった。
たぶん、あそこで流れている時間と、このヒトモッコ山で流れている時間は違うのだ。
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山頂の木に掛けられていた小さな標識
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笹の中の祠の屋根らしい人工物
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