空 中 戦 |
北西の雑木林の向こうから「ピィ〜!」という鳴き声が聞こえてきた。カケスの物まねでなければトビの声だ。上空に大きな円を描きながらのいつもの「ピィ〜 ヒョロ〜」というのんびりした鳴き声とはちょっと違って、緊張感のある鳴き声である。 声のした方を眺めてみると、雑木林の上にひろがった空に、ちょうど鳥が飛び出してきたところだった。遠いながらも、そのはばたかないような飛び方とシルエットから猛禽類であることがわかる。さっき聞いた鳴き声は、カケスのいたずらではなく本当のトビの声だったのだろう。 すると、円を描くように飛んでいたその猛禽に続いて、もう一羽が姿を見せてきた。さらに、一羽。そして、もう一羽。続けざまに猛禽類が合計4羽、遠くの雑木林の上空に現れたのである。 トビが鳴き交わしながら、優雅に円を描いて数羽でゆっくりと上空を舞っている姿はそれまでも何度か見たことはある。しかし、どうもこの4羽の猛禽の様子はそんな優雅な姿ではなかった。基本的に円を描いていて飛んでいるのだが、やけに接近したり、ふいに飛ぶ方向を変えてみたり、体当たりしそうになったり、敵対心をあらわにしているのである。 みんなトビなのだろうか…。遠くて、猛禽類であることはわかっても、その種類まではわからない。あわてて、望遠レンズのついたカメラを持ってきて、ファインダーをのぞいてみるが、それでも判然としない。大きさはみな同じくらいに見える。 ファインダーごしに見ていると、器用に上空でアクロバチックな飛行をしながら、ときにはつかみ合いになろうかというような飛び方をしながら、空中戦をくりひろげているのがわかる。 ちょっと見ているうちに、2羽はトビであることがわかった。特徴的な尾の形がトビであることを示している。だが、もう2羽の正体がわからない。この周辺で頻々に見かける猛禽といえばノスリだが、遠くのシルエットで、体や翼の模様がまったく識別できないのだ。少なくともトビではない。そのうちの一羽は尾羽と翼の三列風切の一部が傷ついてしまっているように見える。 空中戦は戦場を次第に南西へと移しながら続いていった。4羽がそれぞれに小さな円弧を描き、相手を威嚇しながら、その円弧の中心が南西へ移動していっているのだ。 しばらくして、南の空低くなったところで気がつけば、羽が傷ついているように見えた個体の姿がなくなっていた。戦線離脱!? そして、残った3羽は空の上でもつれ合うように飛びながら南へ、西へと遠ざかっていき、やがて視界から消えた。勝敗はいかに…? 縄張り争いだったのだろうか。この辺りの主はノスリのはず… と、人間が勝手に決め込んでいたのだけれど、新たな勢力が進出してきて、抗争が起こったのだろうか。 子育てが始まるこれからの季節、鳥どうしの戦いはあちこちで展開されている。それは同じ種類の鳥どうしのときもあれば、異種の間の戦いのこともある。巣づくりの場所をめぐっての争いや、カップルの争奪戦もある。 鳥たちにとって、春は心休まるときがないのかもしれない。それにしても猛禽類の空中戦はまるで格闘技でも見ているようであった。
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接近戦。右上はトビ。 背面飛行をしながらの戦いは格闘技のよう。 |