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                            2006.7.1. 東吾妻町萩生


 梅雨の切れ間をついて出た散歩。曇っていると肌寒いのに、ひとたび太陽が顔をのぞかせると、真夏の暑さが一気に帰ってくる。

  低木とヤブになっている所にさしかかったときだった。見慣れないオレンジ色の鳥がヤブの中の枝から枝へ飛び移るのが見えた。ホオジロの茶色よりももっとオレンジ色に近い明るい色。
 その場でその鳥が飛び移ったあたりの枝を凝視していると、ヤブの中の葉がガサガサと動いているのが見えた。まだいる。だが、ヤブの中から出てくる気配はない。ヤブの中をよく羽根が枝にあたらないものだと感心するくらい、ちょっと飛んではガザガサ、また飛んではガサガサといったぐあいに動いているのである。
  それでも、しばらく見ていると、やっとヤブの合間に顔をのぞかせた。
 全体はやはりオレンジ色。クチバシもオレンジ色。そして、目の回りが白い。さらに、その白い目の縁取りの上には縁取りと同じような白い眉斑がくっきりとついている。大きさはヒヨドリくらいといったところだろう。
 こんなの鳥は今まで見たことはない。記憶にあるかぎり、図鑑でも見たことはない。だいたい、鳥を見れば「あの仲間かな…」くらいの見当はつくものだが、それもピンとくるものがない。
 ヤブの中から出てこないところを見ると、上手く飛べないのかもしれない…、なんて考えると、何かの幼鳥なのかもしれない。クチバシのオレンジ色というのもなにか幼い雰囲気を出しているようだし…。だが、幼鳥だとしても、普通はその姿から成鳥の姿は大体想像がつくというものだ。しかし、この鳥に関しては、まるで当てはまる鳥が思い浮かばない。
 ヒヨドリに姿は似ているから、ヒヨドリの仲間…?
 尾が長そうだから、セキレイの仲間…?
 オレンジ色の姿ということで、ツグミやアカハラの仲間…?
 どれもこれも、ピンとくる答ではない。
 帰ってから、鳥の図鑑を最初のページから一枚一枚めくってみる。だが、それでも予想通り、該当する鳥はみつからない。
 奴は何者なのだ…!?
 図鑑にも載らないくらいの「超」がつくくらいの迷鳥なのだろうか。妙な期待がだんだんと膨らんできた。
 そして、最後にたどり着いたのは、日本野鳥の会。やはり野鳥のことといえば、頭に浮かぶのはここだ。幸いなことに、野鳥の会は各支部でHPを持っていて、掲示板や質問を受けていたりしている。そこでさっそく、群馬支部のHPの掲示板に写真を添えて質問を送ってみた。
 すると、さすがは日本野鳥の会。半日もたたないうちに、正体は判明したのである。
 この鳥の名前は「ガビチョウ」。野鳥ではなく、外来種であるという。もともとは中国南部、台湾、インドシナなどにいる鳥で、日本にはペットとして輸入されてきたものが、野生化してしまったものらしい。インコなどが都会で野生化して群れを作ってしまっているというニュースは聞いたことがあるが、こんなのもいたのだ。
 がっかりである。超迷鳥なんて期待は見事に打ち砕かれた。“榛名山麓ならではの珍しい鳥”と期待していたのがいきなり“ペットの逃げ出したもの”になりさがってしまったのだ。自然にはふさわしくない都会の臭いが急に漂ってきた気がした。

 外来種の脅威は、すでにブラックバスでよくわかっている。
 絶妙なバランスの上に成り立っている生態系は、そこに新しい生物が加わってくれば、それまで釣り合っていたバランスが崩れる。そして、その新しい生物が加わった状態で新しい生態系のバランスを取ろうとすることだろう。何かが減り、何かが増え、新しい生態系が作られる。けれど、その生態系を構築する生物のバランスが取れるとは限らない。極端な場合、何かが残り、他のもの達がいなくなることもあるだろう。日本にいなかった生物たちが、それまでの生態系に入り込んで、わがもの顔で振る舞うことができるとすれば、それはその環境によく合ってしまっていることになり、そこに生きてきたその土地固有の生物は駆逐されていくという結果になりかねない。こんなことは今やあちこちで実際に起こっていることなのだ。
 この新手の鳥の存在が榛名山に昔からいた鳥たちに影響を与えなければいいが…、と思わずにはいられない。




2006.7.
ガビチョウ