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        これは出来のよい巣

 
巣をほぐしてみると中からはドングリのかけらが出てきた


       アカマツの隙間にあった巣
 雑木林の一角にある家のまわりには、あちこちに積み上げられた薪がある。あるものは丸太を玉切りにしたまま、あるものはもう燃やすばかりに割られた状態となって、背の高さよりも高く積み上げられているのである。これは薪ストーブの燃料として使うだけではなく、連れ合いの登り窯の燃料にもなるので、この辺りで薪ストーブを使っている家と比べても、はるかに膨大な量で、それを知らないで我が家に来る人は大いに驚くのである。
 11月から12月にかけて、そんな薪の大移動があった。10月に登り窯を焚いたので、大量の赤マツの薪が消費され、登り窯のまわりがスカスカとなった所へ、次の窯焚きに備えて、新しい赤マツの割られた薪が移動し、家のまわりには薪ストーブのための薪が武装するかのように積み上げられたのである。そして、さらに丸太の状態で新しい赤マツが運び込まれ、玉切りの状態で積み上げられていた赤マツは割って薪にするという作業が始まったのだ。
 家を造るときにそこに生えていた雑木を伐採して積み上げておいたのを移動していたときのこと。そこに積まれていたのは、すでに丸太ではなく、薪としていつでも使える状態となっていた薪だった。ただ、売られている薪とは違って、生えていた木を慣れないチェーンソウで切ったもので、長さはバラバラ。そのため、積まれた状態もけっして整った状態とは言い難いものがあった。
 不思議なことに、そんな薪の間にクルミの実やドングリのカケラが紛れ込んでいるのがときどき見つかる。おそらくネズミかリスが持ち込んだものだろう。
 さらに上から薪を移動させていくと、どうしたことか、薪の間に妙にゴミがたくさんはさまっている所が出てきた。薪を長い間置いておくと、樹皮がはがれたり、虫に食われたりしてゴミが溜まることはよくあるのだけれど、このゴミの量は半端ではない。しかし、よく見ると、そのゴミと思われたものには、規則性があるではないか。ただゴミが吹き溜まりを作っているのではないらしい。ゴミだと思って手で払ってしまったため、原型は崩れてしまっていたが、細長い植物繊維やビニールの破片が渦を巻くようにしていて、もとは球形に近い形だったのかもしれない。これはもしかして、ネズミの巣…?
 そして、クルミやドングリを持ち込んだ主の仕業か?
 さらに薪を取り除いていくと、また同じような巣が現れた。今度は壊さないように慎重に周囲の薪を取り除き、じっくりと巣の様子を見てみてる。
 巣の材料となっているのは、スギの樹皮が多い。これを細長くちぎって、鳥の巣のように丸い形に作り上げている。家のまわりにはスギは生えていないので、このスギの樹皮は、パーゴラを作るために近くの製材所から皮付きのスギの丸太を買ってきて、ここで皮を剥いたものが付近に捨ててあったので、そこから拾ってきたのだろう。それから、やはりビニールテープの切れ端、そして細長いワラのようになった草の葉や茎なども使われている。いずれも細長く繊維のようになったものが編まれているように見える。
 巣の直径は15cmくらい。球形とはいえないけれど、丸味を持った形で、積まれた薪の間にできた空間にあわせるような形となっていたのだろう。その中にはドングリの皮なども混じっていたりする。
 以前、別のところで見たカヤネズミの巣よりも大きく、かつ、材料は繊細なような感じがした。
 別の薪小屋からも同様の巣が出てきた。こちらは、今年の8月に“新築”した薪小屋である。積んであったのは、赤マツ・クリ・キハダ・クルミ・スギ・リョウブなど数種類の太い木を玉切りにしたものだった。割った薪を積んだのに比べて、隙間がたくさんあるので、巣を作るのには好都合だったのだろう。こっちからは4つの巣が出てきた。基本的に材料も構造も同じなのだけれど、出来のいいものとちょっと粗雑なものがあって、製作者の個性が感じられる。
 薪の中から出てきた巣は合計6個。玉切りしたアカマツの丸太だけが積まれた一番大きい薪小屋からは出てこなかった。巣が出てきたのはいずれも雑木林に接した場所に置かれていた薪の中からだけ。たぶん、製作者は雑木林からやってきたのだろう。
 新しい薪小屋に薪を積んだのは8月だから、この巣が作られたのはそれ以降ということになる。もちろん見つけたときはみんな空の巣だったから、子育てに使っていたのは夏から秋にかけてだったはずだ。
 最大の関心は、その巣の製作者の正体である。
積んである薪の狭い空間に出入りするのだから、そう大きい動物であるはずがない。可能性があるとすれば、ネズミの仲間かヤマネかリスくらいだろう。しかし、リスは木の上に巣を作るというし、その大きさはサッカーボールほどもあるというから可能性はない。ヤマネの巣は写真でみる限りもっと小さく、粗雑な作りをしているようだ。だいたい、こんな狭い範囲に6つがいのヤマネがいたなんてちょっと想像できない。
 やはりネズミの仕業か…。
 しかし、ネズミといってもたくさんの種類がいる。家の中にいるクマネズミやドブネズミはのぞくとしても、ハタネズミ、ヤチネズミ、スミミネズミ、アカネズミ、ヒメネズミ、といった数種類のネズミが候補としてあげられる。しかし、みんなほとんどが地中で生活していて、あまり高いところには上がってこないようだ。唯一、ヒメネズミだけが樹上でも活動することがあるという。しかし、それでも巣は地中につくるらしいが、ときには鳥の巣を使って子育てをすることもあるというから、可能性はないわけではない。また、写真で見る地中のアカネズミやハタネズミの巣もよく似ているからあながち否定はできない。しかし、いかんせん、主のいない空き巣だけでは正体はわからないのである。

 12月14日、枯木の林の隙間にまん丸な大きな月が昇ってきた。4日に初雪が降り、消え残る雪に反射して、雑木林は昼間であるかのように明るく朗らかだ。
 アカネズミが一匹、そして二匹と雪の上をちょろちょろと歩く。フクロウの眼を警戒しながら、拾い忘れたクルミの実を探して。あるいはヒメネズミが雪を掘り、その下の落葉をカサカサかき分けてドングリを探し出す。カリコリとドングリを囓る小さな音が聞こえるようだ。

 巣の数からして、かなりたくさんの個体がこの林に生息していることは間違いない。まだその姿に出会ったことはないのだけれど、彼らの生活の残骸から、賑やかであろう夜の雑木林をあれこれ想像する事もこの上なく楽しい時間である。

2005.12

薪小屋の住人達